ここではクライスラーのRT38型5代目グランドボイジャー [LX] に搭載されている8型の自然吸気エンジンのデータを参考に、このエンジンが持つ特性や素性について調べてみます。
8型の自然吸気エンジン諸元
![]() RT38型 グランドボイジャー 主要諸元まとめ |
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車両型式 | ABA-RT38 |
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車名&グレード | グランドボイジャー LX |
エンジン型式 | 8 |
種類 | V型6気筒 |
排気量 | 3782cc |
内径×行程 | 96.0mm×87.1mm |
ボアストローク比 | 0.91 |
圧縮比 | 9.7 |
吸気方式 | 自然吸気 |
使用燃料 | ハイオクガソリン |
最高出力 | 193PS/5200rpm |
最大トルク | 31.1kgm/4000rpm |
まず基本的な成り立ちとして、8型エンジンはボア(内径)96.0mm、ストローク(行程)87.1mm、ボアストローク比0.91のショートストローク型エンジン(ストローク量よりもピストン径のほうが大きい)です。
排気量と気筒数が同一の場合、ロングストローク型に比べて低回転域でのトルク特性に劣り、扱いにくいエンジンとされるものの、高回転域では充填効率の向上や摺動抵抗の増大も(ロングストローク型に比べれば)軽微なことから出力の向上が見込まれます。
また同じ回転数でも平均ピストンスピードが抑えられることから、その分だけエンジンへの負荷は低減される傾向にあります。
このサイトにて登録されている車種のうち、8型の自然吸気エンジンを搭載する最も古い車種は、2007/03から発売された3代目ラングラー アンリミテッド [2011/02]、最も新しい車種は2008/05から発売された5代目グランドボイジャー [2010/06]となっており、全部で4車種(NA車4台・ターボ車0台)が登録されています。
過渡特性とリッター換算馬力から見た評価
エンジン性能曲線のイメージ | |
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馬力の変遷 | 173.7PS → 193PS |
トルクの変遷 | 31.1kgm → 26.6kgm |
リッター馬力 | 51.03PS/L |
リッタートルク | 8.22kgm/L |
今回の参考車両であるグランドボイジャーのV型6気筒3782cc、圧縮比9.7でハイオクガソリン仕様の自然吸気エンジンは、5200回転のとき最高出力193馬力を、5200回転のとき最大トルク31.1kgmを発生させます。
馬力と回転数が分かればトルクが、トルクと回転数が分かれば馬力を知ることができますので計算してみますと、最大トルクが発生する4000回転での馬力は173.7PS、最高出力が発生する5200回転でのトルクは26.6kgmになります。
排気量1リットルあたりの馬力は51.03PS/L、トルクは8.22kgm/Lとなり、1気筒(単気筒容積630.4cc)あたりの出力は32.2PS、5.2kgmです。
排気量1リットルあたりの馬力が51.03PS/L、トルクが8.22kgm/Lである8型の自然吸気エンジンを、このサイトで登録している全てのNA車から集計した偏差値ベースの10段階評価に当てはめると、評価は換算馬力が[ 2 ]、換算トルクが[ 2 ]の「やや心もとない出力のエンジン」にカテゴライズされます。
排気量アップと圧縮比の上昇、ボアストローク比の変化
ノーマルの排気量と圧縮比 | ||||
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Bore | Stroke | 排気量 | 圧縮比 | B/S比 |
96.0mm | 87.1mm | 3782cc | 9.7 | 0.91 |
ボアアップによる排気量拡大 | ||||
96.5mm | 87.1mm | 3822cc | 9.8 | 0.90 |
97.0mm | 3862cc | 9.9 | 0.90 | |
97.5mm | 3902cc | 10.0 | 0.89 | |
98.0mm | 3942cc | 10.1 | 0.89 | |
98.5mm | 3982cc | 10.2 | 0.88 | |
99.0mm | 4023cc | 10.2 | 0.88 | |
ストロークアップによる排気量拡大 | ||||
96.0mm | 88.1mm | 3826cc | 9.8 | 0.92 |
89.1mm | 3869cc | 9.9 | 0.93 | |
90.1mm | 3913cc | 10.0 | 0.94 | |
91.1mm | 3956cc | 10.1 | 0.95 | |
92.1mm | 4000cc | 10.2 | 0.96 |
エンジンの排気量を決める要素には気筒数、ボア径、ストローク量の3つがあり、これらを増減することでさまざまな排気量のエンジンが生まれます。
ここでは実際に可能かどうかは別として、ピストン径を純正の96.0mmから0.5mm刻みで+3.0mmまで拡大(96.0mm→99.0mm)した場合および、ストロークを純正の87.1mmから1mm刻みで+5.0mmまで延長(87.1mm→92.1mm)した場合の排気量と、燃焼室容積が変化しないと仮定した場合の圧縮比の変化を一覧表にしています。
※ストロークアップと口で言うのは簡単なのですが、ロングストローク化するにあたってはクランクシャフトおよび対応コンロッドが必要になり、純正流用できない場合はワンオフで作らなければならないなど、とにかくお高く付きますので、手を出すには相当の覚悟を求められるメニューです。
圧縮比については、実際のところピストンが大径化するに伴ってピストン天面の凸凹容量も変化する場合が大半ですから、一覧表にある圧縮比の数値の通りにはなりませんが、排気量を大きくすると自ずと圧縮比も上昇しますよ、という雰囲気をご堪能ください。
B/S比はボアストローク比の略で、ボア径を広げていくと0.91からさらに値は小さくなり、ショートストローク型の恩恵と弊害が顕著になっていきます。8型エンジンの場合、純正ピストンから+3.0mmのボアアップをすると比は0.91から0.88に変化するという具合です。
平均ピストンスピード
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続きまして平均ピストンスピードについて見てみます。ストロークが87.1mmのエンジンが最高出力を発生する5200回転での平均ピストンスピードは15.1m/sとなり、これは1秒間に15.1メートル(時速にすると54.4km/h)の距離を進む速さでピストンが上下運動していますよ、という意味です。
最大トルクを発生する4000回転では11.6m/s、最高出力が発生する5200回転より500回転高い5700回転をレブリミットと仮定したときの平均速度は16.5m/sとなっています。
参考までにストロークが87.1mmの8型エンジンを10000回転/毎分まで回したときのピストンスピードの変化を計算してみました。これを見ると回転数が2000回転高くなるごとに概ね5.80m/sずつ速度が増していくようです。
大量生産を前提とした一般的なエンジンの目安である20.0m/sのみを基準として考えると、高回転化の上限を(回るか回らないかは別として)6890回転くらいにするのが機械的にも精神的にも好ましそうです。
8型のエンジンを搭載する車種の例
全4件をアクセスが多いものから順に表示しています。メーカー 車両型式 |
イメージ | 車名&グレード 記事リンク |
出力 燃費 |
吸気 [駆動系] 車体形状 定員 |
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JEEP JK38L |
![]() |
ラングラー アンリミテッド Sport (2011/02) |
199PS 32.1kgm 6.9kmL |
NA [4WD/4AT] SUV 5人乗り |
JEEP JK38S |
![]() |
ラングラー Rubicon 6MT (2007/03) |
199PS 32.1kgm 7.3kmL |
NA [4WD/6MT] SUV 4人乗り |
クライスラー RT38 |
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グランドボイジャー LX (2010/06) |
193PS 31.1kgm 6.9kmL |
NA [FF/6AT] ミニバン 7人乗り |
JEEP JK38S |
![]() |
ラングラー Sport-4AT (2011/02) |
199PS 32.1kgm 7.3kmL |
NA [4WD/4AT] SUV 4人乗り |